拡がるシード・セイバーズ・ネットワーク
グローバル経済の犠牲となり、放っておけばもう二度と甦ることのない貴重な在来種のタネを採取保存し、私達の大切な食の基礎となる作物の古い遺伝子を後世に伝えていこうとする動きが1980年代頃から拡がってきました。
オーストラリアでは1986年にSeed Savers' Network(シード・セイバーズ・ネットワーク)が創設され、ネットワークの会員が、各地に伝承してきたエアルーム種の自然受粉したタネだけを採取・保存・交換していくシードバンクが作られました。現在ではオーストラリア全土に活動支部が拡がり、採種活動に従事する会員は10,000人を越え、シードバンクに登録されているエアルーム種は5,500種以上を越えています。オーストラリアでは各国からの移民が持ち寄ってきた何百種にもわたる稀少野菜のエアルーム種が比較的簡単に手に入るので嬉しい限りです。
シード・セイバーズ・ネットワークの活動はそれだけにとどまらず、自家採種ハンドブック「Seed Savers' Handbook」を出版したり、ワークショップを開催したり、日本を含む海外における同様のネットワーク作りの手助けをしており、国内外で高く評価されています。「Seed Savers' Handbook」は寒地の英国版も出ており、日本でも、有志達の翻訳により2002年2月に日本語版である"自家採種ハンドブック―「たねとりくらぶ」を始めよう"が出版されました。日本人向けに日本の野菜も追加収録されています。
日本における在来種・固定種のタネの保存活動についてもっと知りたい方は下記のサイトをご参照下さい。
- たねとりくらぶ
- ピースシード (種に関する情報交換を主目的としたseed-saversメーリングリストもあります。)
- シード・セイバーズ・ジャパン準備委員会ブログ
また、日本で在来種・固定種のタネを入手したい方は下記のサイトから入手出来ます。
- 「 TANET/野口のタネ」ー 安全な伝統野菜のタネを購入することができる埼玉県の野口種苗研究所のホームページ。サイト上の「タネの話あれこれ」では固定種と交配種の違いなどを含め、タネに関するいろいろな情報がわかりやすく紹介されています。
- 「たねの森」ー オーストラリアのシード・セイバーズ・ネットワーク元研修生がたち上げた無農薬無化学肥料の種子販売サイト。野菜の種のモニター制度もありますよ。
自家採種・在来種関連本
自家採種ハンドブック―「たねとりくらぶ」を始めよう・・・ミシェル ファントン他 (著) 現代書館出版
岩崎さんちの種子(たね)採り家庭菜園・・・岩崎 政利 (著) (財)家の光協会出版
捨てるな、うまいタネ・・・藤田 雅矢 (著) WAVE出版
野菜―在来品種の系譜・・・青葉 高 (著) 法政大学出版局
種採り物語(たくさんのふしぎ 2004年8月号)・・・さとうち藍(文)・関戸勇(写真)福音館書店刊
大根さんの今昔物語(小冊子)・・・森川愛/米田香(作・絵)
私達にできること
まず、ガーデナーとしてできることは、エアルーム種を園芸の中にもっと取り入れ、自家採種、保存につとめることです。エアルーム種は、F1ハイブリッド種と違って、色も形もきちんと次世代に引き継がれるので、タネを自家採取して毎年使いたいガーデナーが有効活用しない手はありません。それにイギリスもオーストラリアも大手の種苗会社は農業用だけでなく園芸用のタネ事業にもバイオ技術を導入し始めていますし、一般に流通しているタネはキャプタンなどで化学処理されていて取り扱い注意の警告がでている危険なタネがあまりにも多いことも無視できない事実です。根っからのオーガニック・ガーデニングを目指すなら、間違って幼児や鳥が食べても害にならない無農薬のタネからスタートしたいものです。自家採取したタネは、既に自分の庭の気候に適応した植物の種子であり、しかも新鮮なので化学処理された市販のタネよりずっと発芽率が良くなるものもあります。
更に、消費者としてできることは、やはり普段私達が何気なく買っているものを見直してみることだと思います。国産のオーガニック食品や綿製品より無意識に安い輸入品を購入したり、ワックスやカラリングなどによる偽りの美しさに惑わされて見目形の良いもの、旬でないものに高い値を出して購入することで不本意にも生産者の農薬使用やGM作物栽培、環境に負荷のかかる不必要な設備投資や石油エネルギー消費を影で支えているかも知れません。また「オーガニック食品」や「自然食」が高く売れるからといって厳密にはそうとはいえないものに安易に名前を使う販売者がいることにも留意し、購入するものがどういった処理をされてどういった流通経路をたどって来るのかということにもっと関心をもって確かめて買うことも大切です。実際に利益のみを追求する企業にとっては業績の数字が全てであり、企業に方針転換を迫る上で最も効果があるものは、結局のところ一部の消費者の反対運動よりも、多くの消費者の消費行動の結果なのだということを忘れてはならないと思います。
参考リンク
最後に私がエアルーム種のタネを入手したり、GM産業についての情報源としている団体(いずれも英語サイト)をご紹介します。
The Digger's Club | 我家から車で30分程のモーニントン半島の一角に海が見渡せる素晴らしいガーデンを持つ会員制のガーデン・クラブ。オーストラリアの気候に適した乾燥に強い植物や豊富なエアルーム野菜の種を通信販売しています。私がターミネーター技術のことを初めて知ったのは1999年、このクラブのカタログの特集記事によってでした。 |
Organic Gardening | 北米におけるオーガニック・ガーデニングの権威であるロデイル(福岡正信の「わら一本の革命」の英訳版を出した出版社)によって創刊され、60年以上も続いている私のお気に入りの季刊雑誌です。特にWatch Dog(番犬)のコーナーは、消費者として警戒しなければならない農薬やGM作物に関連する産業・政策の動向をいち早く伝え、アメリカの消費者運動形成に大きな貢献をしています。ホームページも雑誌同様充実。 |
ETC Group (旧RAFI) | アメリカの農業関連消費者団体の先鋒として様々な啓蒙活動や反対運動を行っており正確な情報入手量、提供量も群を抜いています。私も今回このコーナーを作成する上で、このサイトの資料「Terminator Technology - Five Years Later (May/June 2003)」を特に参考にしました。 |
Eden Seeds | クイーンズランドにあるエアルーム種のタネを専門に扱う通信販売店。オーガニック農法、バイオダイナミック農法で栽培された作物から採取したタネを中心に扱っていて、アジア系の野菜を含む珍しい品種のタネが豊富に揃っています。バイオダイナミック・カレンダーや園芸書も入手できます。 |